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『ゆきゆきて神軍』The Emperor's Naked Army Marches 衝撃のドキュメント

『ゆきゆきて神軍』とは、1987年に公開された日本のドキュメンタリー映画です。監督は原一男。主人公は太平洋戦争でニューギニア戦線に従軍し、戦後は反体制活動家として知られる奥崎謙三です。

マイケル・ムーアが一番影響を受けた映画だと言っているのは有名な話ですよね。

この映画は、奥崎が戦友の慰霊と戦争責任の追及のために、元兵士たちを訪ねて真相を探る様子を追っています。特に、終戦後に部下を処刑した事件について、関係者から衝撃的な証言を引き出すシーンが印象的です。日本国内外で多くの賞を受賞し、高い評価を得ました。

奥崎謙三・犯罪歴

・昭和31年 不動産業者を傷害致死 懲役10年

・昭和44年 新年皇居参賀で天皇にパチンコ玉を発射 懲役1年6か月

・昭和51年 天皇ポルノビラを撒く 懲役1年2か月

・昭和56年 田中角栄殺人予備罪で逮捕 不起訴

・昭和62年 元上官の息子を銃撃し重傷を負わせた罪で懲役12年の実刑判決。

 

まず私が度肝を抜かれたのは冒頭の結婚式のシーン。媒酌人として挨拶する奥崎は参列者を前に自分の犯罪歴を述べます。新郎も反体制活動をした前科者なのですが、それを差し引いても前代未聞の挨拶です。その場に流れる地獄のような空気は、飲んでた珈琲を吹き出しそうになるほどでした。

 


奥崎はニューギニアで戦死した島本一等兵の母親に会いに行き、自分が埋葬したことを報告します。そして彼は他の悲惨な死に方をした兵士に比べれば幸せだったんじゃないかとも…

奥崎も母親も泣いています。母親の心情を察すれば胸が締め付けられるシーンです。

 

奥崎は、終戦後23日も経ってから2人の兵士が処刑された事件の真相を探るために、当事者と思われる元兵士たちを訪ねていきます。ほとんどの者が名前を変えていました。

元兵士たちは皆事件のことを知らないと言います。島根県の元軍曹を訪ねた時には、その態度に腹を立て馬乗りになって殴ります。

60過ぎの男が馬乗りになって殴るシーンは衝撃的です。近くにその家の子供もいますし、カメラは普通に撮っているし、まさにカオスです。あの子供のトラウマになっていなければ良いのですが…

奥崎は、処刑された兵士の親族とともに根気よく当事者たちを訪ねて歩き、少しずつ事件の真相に近づいていきます。それは衝撃的なものでした。詳しくは映画をご覧ください。

奥崎は、島本一等兵の母をニューギニアに連れて行くと約束していましたが、母親はその前に亡くなりました。

1983年、一人でニューギニアに行った奥崎でしたが、そこで撮った映像はニューギニア政府に没収されたそうです。

日本に帰った奥崎は、処刑を直接命令した村本(旧姓古清水)の元を訪れ、対応に出てきた村本の長男を銃撃して重傷を負わせ、2日後に逮捕されました。

 

私はこの映画を見て衝撃を受けるとともに複雑な思いに駆られました。

奥崎は自分の信念を貫き、戦争の真実を明らかにしようとしたのは間違いないです。時に暴力的で過激な方法をとりましたが、それは彼なりの正義感と情熱の表れなのでしょう。彼は自分の過去や現在に甘んじることなく、未来へ向けて発信し続けました。

戦争の被害者でありながら、加害者でもあったことを自覚し、その責任を背負って生きたのです。彼は天皇や政府に対しても恐れることなく批判し、自分の人生を賭けて「神軍平等兵」として闘いました。

 


この映画は、戦争の悲惨さや無意味さを描くだけでなく、戦後も続く戦争の影響や問題を浮き彫りにします。人肉食や部下射殺などの事件は、戦争が人間の尊厳や倫理を奪っていくことを示しています。

また、元兵士たちの証言は、戦争が人間の心や記憶に深い傷跡を残していることを示しているようです。さらに、奥崎の活動は戦争が歴史や社会にも深刻な影響を及ぼしていることを示しています。

この映画は、私たちに戦争の恐ろしさや愚かさを教えるだけでなく、戦争に対する認識や態度を問いかけているのです。

私は平和な時代に生まれ育ちましたが、私の祖父たちの世代は文字通り地獄を経験しているのです。私が小学生の頃は、戦争に行った方たちがまだ60歳ぐらいだったので元気でした。

しかし興味本位で戦争の話を聞いても、あまり話したがらなかったような記憶があります。いったいどれほどの体験をしたのか、今を生きる我々には想像もできません。

でもこれだけはハッキリわかります。彼らは日本にいる家族を守るために戦ったのだと。そしてそれは国を守ることと同義なのです。

そして最後に一つだけ。

戦争という極限状態の中で起こった出来事を、平時に生きる我々が今の精神状態で批評するのはバカげています。

昔雪山に墜落した飛行機事故で人肉食が行われました。

後にマスコミなどが取り上げて物議をかもしますが、『極限状態の中で起こった出来事を、平常な精神状態の我々が裁くべきではない』ということで落ち着いたそうです。

私もまったく同意見です。

戦争を経験した人間の言葉には説得力があります。これぞリアル。思想や考え方は違っても聞く耳は持つべきです。

『ゆきゆきて神軍』。衝撃的な内容ですが日本人なら観ておいた方が良いと思いますよ。自分の中の何かが激しく揺さぶられます。