あなたは「アメリカが中国製品に追加関税を課した」「WTO(世界貿易機関)が関税紛争を仲裁」——こうしたニュースを見かけたことはありませんか?
けれども、「関税って何?どうして国と国が揉める原因になるの?」と疑問に思ったことがある人も多いでしょう。
関税は、国際貿易において非常に大きな役割を果たす存在です。身近な生活にも影響があるにもかかわらず、その仕組みや意味は少し分かりづらいかもしれません。
この記事では、関税とは何か、その仕組み、目的、そして私たちの暮らしにどう影響するのかを、できるだけわかりやすく解説していきます。
関税の基本
関税とは「外国からの輸入品に対してかけられる税金」のことです。
国内で作られた製品やサービスには通常、消費税などの税金がかかりますが、関税は「国外から入ってくるモノ」に限定して課されます。
この税金を支払うのは通常、輸入業者ですが、実際にはそのコストは商品の価格に上乗せされて、最終的には私たち消費者が負担することになります。つまり、関税が高くなると、輸入商品は値段が高くなる傾向があります。
たとえば、海外から輸入されたワインやチーズ、果物、衣類、さらにはスマートフォンや自動車にも関税がかかることがあります。そのため、「なぜ同じような商品なのに国産品より高いの?」という疑問の背景には、関税が関係している場合もあるのです。
関税をかける主な目的
① 国内産業の保護(保護主義)
最もよく知られているのは、国内産業を保護するためです。
たとえば、もし安価な外国産の野菜や米が大量に入ってくれば、日本の農家は価格競争に勝てず、経営が難しくなるかもしれません。そこで政府は、輸入品に高い関税をかけて価格を上げ、国内産業を守ろうとします。
日本では「米」「乳製品」「牛肉」などに比較的高い関税がかかっており、それが国内農業の維持に一役買っています。
② 財源の確保
関税は、政府にとって収入源(財源)にもなります。
現在の日本では関税収入の割合は小さくなりましたが、かつては国家財政の重要な柱でした。特に開発途上国においては、税制が未発達なため、関税収入が国家財政の大きな部分を占めている国も少なくありません。
③ 外交・交渉のカード(報復関税など)
関税は時に、外交や経済交渉の「武器」として使われます。
アメリカと中国の貿易戦争では、お互いに関税をかけ合う「報復合戦」が繰り広げられ、世界経済に大きな影響を与えました。このように、関税は単なる税金以上に、国際関係を動かす力を持っています。
関税がかかるとどうなる?
● 商品が高くなる
- もっとも直接的な影響は、輸入品の価格上昇です。たとえば、海外から1,000円で仕入れた商品に20%の関税がかかると、価格は1,200円になります。さらに流通や販売のコストが加わり、私たちの手に届く頃には、1,500円や2,000円になっているかもしれません。
● 消費者の選択肢が狭まる
- 価格が高くなれば、消費者はその商品を買いづらくなります。その結果、輸入品の流通が減り、選択肢が狭まるという側面もあります。
● 国内産業が守られるが、競争が減るリスクも
- 一方、関税によって守られた国内企業は、海外との過度な競争からは解放されます。しかし、それが長く続くと、競争がないことによる技術革新の停滞や高コスト体質といったデメリットが生じる恐れもあります。
関税の種類と仕組み
関税には大きく分けて、次の2種類があります。
● 従価税(じゅうかぜい)
- 輸入品の価格に対して一定の割合で課される税。
例:商品の価格が1万円で、関税率が10%なら、関税額は1,000円。
● 従量税(じゅうりょうぜい)
- 商品の数量や重量に対して一定の金額が課される税。
例:ワイン1リットルにつき200円の関税がかかる。
また、特定の国や地域に対しては、特恵関税(とくけいかんぜい)といって関税を下げたり免除したりする制度もあります。これは主に、発展途上国の経済成長を支援するために設けられています。
日本と関税の現状
日本は、工業製品に関しては比較的関税が低い国です。たとえば家電や自動車などは、他国と比べて関税が緩やかです。しかし、農産品に関しては例外であり、コメや小麦、乳製品などは高い関税が設定されています。これは、先述の通り国内の農業を保護するためです。
また、日本はEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)を通じて、関税を段階的に撤廃していく動きも進めています。たとえば「日EU・EPA」や「TPP」などにより、一部の商品は関税がゼロになることもあります。
その結果、私たちがスーパーで手に取る食品や衣類、家具の価格にも影響が出ており、関税の動きは決して他人事ではありません。
トランプ大統領の発言
アメリカのトランプ大統領は「日本にアメリカ製品を輸出するとき、日本は消費税を課しているが、アメリカは日本製品に同様の税をかけていない。それは不公平だ」という趣旨の発言をしています。
つまり、消費税=輸入品に不利な課税=関税と同じような効果を持つ、という解釈です。
■ なぜそう見えるのか?
日本の消費税は、輸入品を含むすべての商品にかかるため、たとえばアメリカから日本に自動車やワインを輸出すれば、輸入時に日本の消費税(10%)が課されます。
一方、日本からアメリカに輸出する場合、アメリカには日本の消費税がかからないし、アメリカの消費税(州税)も輸入品に一律ではないため、「アメリカ側には課税がなく、日本側は課税している」という構図に見えます。
■ しかしこの主張には問題がある
① 消費税は「国産品にも同様にかかっている」
- 輸入品だけを狙い撃ちにしているわけではない。
これは内国税であり、関税とは明確に異なります。
② 世界の税制ルール(消費地課税の原則)に沿っている
- 消費税は「物が消費される国」で課すというのが国際原則。
つまり、日本国内で消費される以上、アメリカ製品にも日本の消費税がかかるのは当然。
③ アメリカも同様の仕組み(州税・売上税)を持っている
- アメリカでは連邦レベルに消費税はないが、州や地方に売上税(sales tax)があり、これは輸入品にも国産品にも平等に課されている。
■ 実際には「関税」ではない
- 消費税は貿易を制限したり、輸入品を差別的に扱う意図のある税金ではありません。WTO(世界貿易機関)など国際ルール上も、正当な国内税制として認められています。したがって、トランプ氏の発言は政治的交渉の一環であり、正確な税制理解とは異なる側面があると見るべきです。
まとめ:関税を正しく理解してニュースを読もう
関税とは、単に「外国製品にかかる税金」ではなく、国家の産業や経済、外交にも関わる重要な政策手段です。関税が変われば、私たちが買う食品や衣類の価格も変わり、暮らしに直接影響します。
これからはニュースで「関税」という言葉を見かけたとき、「どの目的でその関税がかけられているのか?」「それが自分の生活にどう影響するのか?」を少し意識してみてください。世界経済や日本の政策が、より立体的に見えてくるはずです。