あなたは、太古の地球には「巨人族」が存在した――。そんな話を一度は耳にしたことがないでしょうか? それは聖書に記されたネフィリムのような存在かもしれませんし、日本の山々を歩いたとされるダイダラボッチのような神話の巨人かもしれません。
インターネット上には、巨大な人骨が発掘されたという話や、世界各地の古代遺跡が「巨人によって築かれた」とする説が散見されます。一方で、それらの多くは科学的根拠に乏しく、捏造や誤解とされてきました。
果たして、巨人族は本当に存在したのでしょうか? 本記事では、伝説・発掘情報・考古学・科学的知見をもとに、その真偽を探っていきます。
- 世界各地に残る「巨人伝説」
- 巨人族の存在を示すとされる主な「根拠」
- 科学的見解と反証
- 巨人伝説が生まれた理由とは?
- 陰謀論とネットミームの影響
- 古代中国に伝わる「長人」の記録と孔子の身長伝説
- おわりに
世界各地に残る「巨人伝説」
まず注目すべきは、地球上のほぼすべての文化において「巨人」の存在が語られている点です。
旧約聖書のネフィリム
- 創世記第6章に登場するネフィリムは、「神の子ら」と「人の娘たち」との間に生まれた者とされ、高さ3〜4メートルはあったという解釈もあります。
ギリシャ神話のティターン族
- 天の神ウラノスと大地の神ガイアの子らであり、神々に挑んだ巨大な存在。ゼウスらオリュンポスの神々に敗れますが、その圧倒的な力は多くの神話に描かれます。
北欧神話のヨトゥン(霜の巨人)
- 神々と敵対する存在であり、世界の終焉「ラグナロク」では神々と最終戦争を繰り広げます。
日本神話のダイダラボッチ
- 巨大な足跡を残し、山を動かすなどの逸話を持つ巨人。茨城県や山梨県などに伝承が多く、地域の地形と結びついて語られることが多いのが特徴です。
アメリカ先住民や南米の伝承
- ナヴァホ族やマプチェ族などにも「人間を食らう巨人」の神話があり、広い地域にわたり巨人像が存在することがわかります。
こうした多文化にわたる巨人伝説の存在は、単なる偶然なのでしょうか? それとも何らかの共通の原体験を反映しているのでしょうか?
巨人族の存在を示すとされる主な「根拠」
続いては、「巨人は実在した」と主張する側が挙げる代表的な“証拠”を検証します。
1. 巨大人骨の発見報告
19〜20世紀、アメリカ中西部やギリシャ、ルーマニア、インドなどで「巨大な人骨が発見された」という報告が相次ぎました。なかでも特に有名なのが、米国ウィスコンシン州の「3.5メートルの人骨」とされるものです。
しかしその多くは、現物が博物館などで確認されておらず、信頼できる論文や研究者による記録も残っていません。2000年代にネットで拡散した「巨大人骨の写真」も、画像編集ソフトによる合成であったことが後に判明しています。
2. 考古学的な構造物
巨人の存在を支持する人々がしばしば挙げるのが、古代の「巨大建造物」です。例えば、レバノンのバールベック遺跡には、数百トンの石材が使われた基盤があり、「現代のクレーンでも動かせないほど巨大。巨人でなければ造れなかったのでは?」という説が存在します(下記画像)
また、日本の与那国海底遺跡やイースター島のモアイ像なども「人間の技術では不可能」とする意見がありますが、いずれも現代考古学は「人類の創意と努力」で作られたと結論づけています。
出典:Wikipedia
3. 文献・古文書の記述
聖書の外典「エノク書」では、巨人が地上に堕ちた天使の子孫として記され、「身長は3000キュビト(約1350m)」という荒唐無稽な数字が出てくる場面もあります。
また中世の探検家の記録や、アジアの伝説にも「山のような人々」の話が登場しますが、これらは比喩的表現や伝聞であることが多く、事実としての信憑性は高くありません。
科学的見解と反証
巨人の話に対して、科学的にはどう解釈されているのでしょうか?
1. 巨人症(ギガンティズム)という医学的現象
現実の医学には「巨人症(Gigantism)」という病気があります。成長ホルモンが過剰に分泌されることで、身長が極端に伸びる疾患です。
実例としては、アメリカのロバート・ワドロー氏(1918-1940)は身長2.72mにもなりました。しかし骨密度や心臓の負担も大きく、長寿は難しいとされています。
したがって、「人間の限界を超えた3〜5メートル級の巨人が文明を築いていた」というのは、生物学的・医学的に否定されています。
2. 考古学・人類学の立場
現存する人骨の中で「異常に巨大なもの」は、公式な考古学上では確認されていません。科学的調査の結果、多くの“巨人骨”とされた遺物は恐竜の骨やクジラの骨の誤認であることが明らかになっています。
人類の進化の過程においても、数百万年の間に平均身長は徐々に変化してきましたが、超巨大な種が存在した形跡はないとされています。
巨人伝説が生まれた理由とは?
それでは、なぜこれほど多くの文化に「巨人」の話があるのでしょうか?
自然物・化石の誤認
- 恐竜やマンモスの巨大な骨を人間のものと誤って解釈した可能性は高いです。古代の人々が未知の骨を見たとき、それを「巨人の遺骸」と捉えても不思議はありません。
敵対的部族への誇張
- 敵部族を「体が大きく力が強い」と表現することで、物語性を高めたり、自民族の勝利を称賛する演出であった可能性もあります。
精神的象徴
- 巨人は力・自然・神々しさの象徴として、集合的無意識に刻まれた存在かもしれません。英雄神話との結びつきも濃く、人間の想像力の産物として機能しているのです。
陰謀論とネットミームの影響
「巨人は存在していたが、政府や博物館が隠している」という陰謀論も根強くあります。特に「スミソニアン博物館が巨大人骨を破壊した」という話はよく語られますが、証拠はありません。
近年では、Photoshopなどで合成された「巨人の骨と考古学者」の写真がSNSで拡散され、それが“証拠”として誤解されるケースも後を絶ちません。こうした現象は、都市伝説と現実の境界をますます曖昧にしています。
古代中国に伝わる「長人」の記録と孔子の身長伝説
中国の古代文献にも「非常に背の高い人物」の記録がいくつか登場します。なかでも注目されるのが「長人(ちょうじん/zhǎng rén)」と呼ばれる存在です。これは、常人よりも著しく背が高かった人物、あるいは「異形の民」として語られることもある種族です。
例えば、古代中国の地理・民俗を記した伝奇書『山海経(せんがいきょう)』には、異形の民や巨人に似た記述が登場します。また、後漢の時代に書かれた『述異記』や『神異経』には、「身長三丈(約6〜7メートル)」の者がいたという記述すらあり、一種の“巨人伝説”のように語られています。
中でも興味深いのが、孔子(紀元前551年〜紀元前479年)に関する身長伝説です。
儒教の祖として知られる孔子は、『史記』など複数の古典に登場しますが、一部の古注や口承伝承では「孔子は九尺六寸(約2.20メートル)だった」ともいわれています。当時の「一尺」は現在より短く、正確な換算は難しいものの、当時の平均身長(おそらく160cm前後)を大きく超えていた可能性があります。
私が昔見た日中合作の「孔子伝」というアニメでは現在の数値で196センチと言っていたような気がします。まぁ今の世でもバカでかいですね。
このため、孔子は「長人の末裔であり、精神的・肉体的にも卓越した人物だった」とする説もあります。とはいえ、現代の学術的見解では、こうした伝説は尊敬や神格化の表現の一つであり、実際の身長が現代のバスケットボール選手並みだったという確証はありません。
それでも、孔子をはじめとした古代の偉人に「人並外れた体格」を付与する伝承は、巨人伝説や長人神話が“偉大さ”の象徴として機能していたことを示す一例とも言えるでしょう。
おわりに
太古の地球に「巨人族」が存在したのか――この問いに対し、現代科学は否定的な見解を示しています。考古学的にも人類学的にも、数メートルを超える巨人の実在を裏付ける証拠は見つかっていません。
しかし、世界中に共通して語られる「巨人伝説」や「長人」の記録、そして孔子のようにその偉大さを強調するために“巨身”とされた偉人の逸話などは、単なる作り話として片付けるにはあまりにも興味深く、多くの示唆を含んでいます。
巨人という存在は、私たちの中にある「畏れ」や「尊敬」、「未知への憧れ」を象徴しているのかもしれません。それは、人智を超えた存在としての自然、神、祖先、あるいは超能力的な知恵と力への投影だったとも考えられます。
科学は巨人の存在を否定しても、伝説や神話は消えることなく、人々の心の中に生き続けます。巨人とは、かつて実在したかどうかを超えて、人類が古来より抱いてきた“スケールを超える何か”への思いの象徴なのです。
あなたは信じますか? 巨人たちが、かつて大地を歩いていたという物語を。