最近、犬の殺処分を扱った動画を見て思い出したことがある。
私は子どもの頃、近所で飼っている犬をよく散歩させていた。頼まれてとかではなく、その犬がかわいくて遊びたかっただけだった。周りの人に言わせれば、私は動物に対して無警戒すぎるらしい。
確かに犬に嚙まれたことはいっぱいある。シベリアンハスキーに嚙まれたときは初めて犬に恐怖心を抱いた。
私が小学生だった30年以上前は野良犬がいっぱいいて、学校の中に迷い込んできた犬をみんなで可愛がったり、野良犬に嚙まれたなんて事はわりと普通にあることだった。
その日も近所の犬を散歩に連れ出した私は山のほうに向かっていった。私の住む地域には、大人たちから絶対に入るなと言われている山があった。理由は、野犬がいっぱいいるからだそうだ。しかし、行くなと言われれば言われるほど行きたくなるのが子供の性、好奇心のほうが勝るのである。
その山は私の家から歩いて30分くらい。それほど高い山ではない。なんの警戒心も持たずに入っていった。しばらく登っていくと、突然右側の斜面から白い犬が降りてきて私の10メートルくらい前に立ちはだかった。
今の状況が吞み込めずに固まっていた私には正確な時間はわからないが、多分5秒ぐらい見つめあっていたと思う。するとその犬は、急な斜面をものすごいスピードで駆け上がって消えていった。
普通だったらその時点で引き返してくるものだが、私は更に入っていった。この無警戒さと考えの甘さが私の真骨頂だ( ;∀;)
またしばらく登っていくと、今度は馬鹿でかい黒い犬が現れた。そして私の連れている犬に襲い掛かったのだ。犬同士の本気の喧嘩の迫力に圧倒されてしばらく呆然としていた私だが、近所の犬に何かあったら大変だと思い、持っているリードを思いっきり引っ張って二頭の間に割って入った。
今考えたらよくそんなこと出来たなと思うが、火事場のくそ力というやつだろうか。とにかく夢中で連れている犬を助けなくちゃと思ったのだろう。
そして不思議なことだが、割って入った私にその黒犬は危害を加えなかった。それで何とか距離をとったが二頭の犬はまだ威嚇しあっている。私は近所の犬を抱きかかえ少しずつ後ずさりして山を下りてきた。
近所の犬は体のあちこちから出血していた。放心状態の私は、飼い主に正直に話した。でも怒られなかった。あれから30数年一度もあの山には入っていない。今でもまだ野犬が支配しているのだろうか。
むかし「流れ星銀」という漫画があったが、そんな世界が現実にあるのかもしれない。私はそんな世界に無警戒に足を踏み入れてしまい、彼らの洗礼を受けたのかも。
殺処分を待つ犬たちの顔を見ていると、彼らもこんな所で死を待つより、野に放たれて弱肉強食の世界で淘汰されていったほうがまだ幸せなんじゃないかと思ってしまう。