1995年公開
監督:デヴィット・フィンチャー
主演:ブラット・ピット
:モーガン・フリーマン
「七つの大罪」をモチーフにした連続猟奇殺人事件を追う二人の刑事の姿を描いたサイコサスペンス。
私がこの映画を観たのは今から27年前の17歳の時。あの時の衝撃から30年近く経つ今でも全く色褪せない傑作だと思います。誇張なしに20回以上は観ている作品です。
普段映画の感想を書く時には、ネタバレをしないように気を付けますが、この映画は27年前の作品だし、超有名な映画なので今回はネタバレ有りの自由な感想を書かせてください。
もしまだ観ていなくてこれから観る予定のある方は、これ以上読み進めないことをオススメします。
脚本・演出・演技、どれをとっても完璧なのですが、私がこの作品に魅了される最大の要因は、この映画の最初から最後まで一貫して続く「なんとも形容しがたい暗い雰囲気」です。
観ているこっちまで不安になるような、この何の救いもない世界で諦めに似た感情を抱きながら淡々と生きる人々の様子。控えめに言って最高ですね。
あらすじ
一週間後に定年を迎えるサマセット(モーガン・フリーマン)と、わざわざこんな治安の悪い地域に自ら志願してきた若い刑事ミルズ(ブラット・ピット)は、ある死体発見現場に来ていた。
死体は規格外の肥満で、テーブルの上のスパゲティに顔をうずめて死んでいた。手足は縛られており、何者かに銃で脅されながら無理やり食わされていたことが判明。死因は食物の大量摂取と腹部を殴打されたことによる内臓破裂。殺人事件と断定。
サマセットは犯人がわざわざ手の込んだ殺し方をしていることから、この事件はまだ続くと予想し「定年間際にやる仕事じゃない」と担当を断るが、人手が足りないことを理由にその願いは聞き入れられなかった。
死体の胃の中に入っていたプラスチックの破片をヒントに現場の冷蔵庫を動かすと、死体の油で書かれた「GLUTTONY(暴食)」という文字を発見。
次の日、荒稼ぎしていた弁護士のグールドが死体で発見される。彼は自分のオフィスで殺されており、天秤の上にはグールドの肉がきっかり1ポンド乗っていた。
犯人はグールドにどこの肉を切り落とすのか、自分で選ばせて切り落とさせたと推察される。現場にはグールドの血で「GREED(強欲)」と書かれており、これを見たサマセットは犯人が「七つの大罪」をモチーフにして連続殺人をしていると判断する。
ここから「SLOTH(怠惰)」「LUST(肉欲)」「PRIDE(高慢)」と殺人が続いていく。
「ENVY(嫉妬)」「WRATH(憤怒)」が残る中、犯人のジョン・ドウ(ケヴィン・スペイシー)が自ら出頭してくる。彼は弁護士を通じてサマセットとミルズ2人が同行することを条件に、残る2つの死体の場所を教えると提案。
取引に応じた二人はジョン・ドウと共に車で指定の場所に向かう。暫くするとこちらに向かって宅配業者の車が走ってくる。業者の男の話では、7時きっかりにここに荷物を配達するように依頼されたという。
サマセットがその荷物を調べると、中にはミルズの妻であるトレイシー(グウィネス・パルトロウ)の切断された首が入っていた。
6番目の罪「ENVY(嫉妬)」は普通の夫に嫉妬し羨み、それを叶えるためにトレイシーの元を訪ねたジョン・ドウ自身。
7番目の罪「WRATH(憤怒)」はトレイシーを奪ったジョン・ドウに対するミルズの怒りだったのだ。
サマセットの制止も聞かずミルズはジョン・ドウを射殺する。これによってジョン・ドウの計画は達成された。
憤怒の罪を犯したミルズは命こそ落としてはいないが、心が壊れてしまったので死人同然だろう。
7つの大罪とは
キリスト教において、人間の堕落に象徴される七つの欲望や導かれる方向に対する「罪」とされるもので、以下のようなものになります。
①傲慢(ごうまん)
神や他の人よりも自分が優れていると思い、他人を見下す態度。(映画では高慢と字幕がつく場合があります)
②強欲(ごうよく)
物質的な欲望を満たすために、強い衝動をもって財産や金銭を求めること。
③怠惰(たいだ)
意思や行動を怠り、義務を怠って放棄すること。但し、キリスト教における「怠惰」は怠けてだらしない様を咎めているわけではなく、逆に安息日にまで働いて忙殺されてしまうことを戒めているようです。
④嫉妬(しっと)
自分にはない他人が持っている物を妬みうらやむこと。
⑤憤怒(ふんぬ)
他人の状況や行動に対して怒りや不平を持ち感情的になること。
⑥色欲(しきよく)
性的な満足を得るために欲に溺れ、淫乱な行動をとること。
⑦暴食(ぼうしょく)
食べ物や飲み物に執着し、欲望のままに食事すること。
これらの「七つの大罪」は、キリスト教において人間が神との関係を乱し、自分自身や他者を支配する原因とされ、改心によって罪の許しを得ることが求められています。
好きなシーン
サマセットが所長と話してるシーン。「犬の散歩中に襲われて時計と財布を盗られた男が、誰の救いもなく道端に倒れていたら今度はナイフで両目を刺された」と言ってうんざりしているサマセットがなんか切ない。
ミルズの妻のトレイシーに電話で夕食に誘われたサマセットが、夫であるミルズに聞かれるまで何の電話だったのか話さないところが変人っぽくて好き。
指紋照合の結果を待つ間ソファーでサマセットに寄りかかって寝てるミルズが可愛い。
トレイシーがサマセットに相談しているシーンは何故か見ごたえがある。二人とも表情の演技がすごくて鳥肌が立つ。
娼婦が殺された店の店主が、「あんな所で仕事してて楽しいか?」と聞かれて言った言葉、「いいや楽しかねえ、それが人生だろ?」。その通りだと思います。
サマセットとミルズがパブで酒を飲みながら話すシーン。
サマセット:「俺はもう無関心が美徳であるような世の中はうんざりだ」
ミルズ:「あんたも同じだろ」
サマセット:「違うとは言ってない、俺にも十分わかる、無関心が一番の解決だ。人生に立ち向かうより麻薬におぼれる方が楽だ。稼ぐより盗む方が楽だ。子も育てるより殴る方が容易い、愛は努力が要る」
ミルズ:「あんたは世の中をそう思うから辞めるわけじゃない。辞めるからそう思うんだ。俺に同意を求めてる。ああ世の中最悪だ、こんなところ辞めて山奥に住もうってね。だが俺はそうは言わない、あんたに同意はしない」
この会話の後、サマセットは寝る時にいつもつけていたメトロノームを投げ捨てます。ミルズに真理を突かれ心境の変化があったのでしょう。
この映画を観ていると、携帯電話もインターネットも普及していなかった時代が無性に恋しくなるのは唯の無いものねだりなのか、それとも思い出補正で過去を美化しているだけなのか…
ありがとうございました。